村上春樹 雨やどり

最近ある小説を読んでいて、お金を払って女と性交しないというのは

まっとうな男の条件のひとつであるという文章にであった。

 

こういうのを読むと、なるほどな、と思う。

 

なるほどなと僕が思うのは、必ずしも僕が僕がその説を正しいと思うからではない。

 

我々は多かれ少なかれみんなお金を払って女を買っているのだ

 

昔、ずっと若い頃はもちろんそんな風に考えることはなかった。

 

僕はごく単純にセックスというものは無料だと考えていた。

 

知らない女の子のアパートに泊まり、

朝になってインスタントコーヒーをすすりながら

冷たいパンをわけあうといったような生活で、それでも楽しかった。

 

しかし年をとり、それなりに成熟するに従って、

我々は人生全般に対してもっと別の見方をするようになる。

 

 

その時一緒に飲んでいた女の子は、

何年か前にお金をもらって複数の男と寝たことがあると僕に言った。

 

最初に彼女が寝た相手は中年の医者だった。

あとで分かったことなんだが五十一歳だった。

 

僕はこのあたりに部屋を持っているんだけど、、、。

「私は高いのよ」

 

金額を言ってみなさい

七万円

なぜそんなことを言ったのかはわからないが

咄嗟に言葉が出ていしまった

 

その後、彼女は五人の男と寝た

一度も断られることなく

相手を見れば金額がわかるのよ。

 

そのお金は結局どうしたの

「全部まとめて三年定期にしちゃったの」

 

ねぇ 「もしさ僕がお金を払って君と寝たいと言ったとするね。もしだよ」

君はいくらと言う?

 

二万円、、、僕のポケットには三万八千円入っていた。

 

僕は二万円を払って彼女と寝ることを想像してみた。

彼女と寝ること自体は悪くないがお金を払うというのは

ちょっと妙なものだろうな。

 

その昔セックスは山火事みたいに無料だったことを思い出した。

本当にそれは山火事みたいに無料だった。